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10GbE NASは実際に何MB/s出る?iperf3・SMB・SSD・HDDでボトルネックを切り分ける方法

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最終更新日:2026年9月2日

10GbE対応NASを導入しても、Windowsのコピー画面が200MB/s前後しか出ないと、「10GbEなのに遅い」「HDDだから仕方がない」「SSDキャッシュを追加すべき」と判断しがちです。しかし、コピー速度だけでは、LAN、PC側SSD、NASのHDD・SSD、RAID、SMB、CPU、キャッシュのどこが詰まっているか分かりません。

10GbE NASの大容量ファイル転送は、十分に速いSSDプールや多台数アレイなら800~1,180MB/s前後、単体SATA SSDならおおむね450~550MB/s、単体HDDなら140~260MB/s付近が最初の比較目安です。ただし、これは製品を問わず保証される速度ではありません。HDDの型番、RAID、NASのCPU、SMB署名・暗号化、クライアント、測定方法で大きく変わります。

本記事では、まずiperf3でストレージを通らないネットワーク性能を測り、次にPCとNASのローカルストレージ、最後にSMBの実ファイル転送を測ります。さらに、方向別上限式、ネットワーク実効値に対するSMB到達率、転送開始・持続・書き戻しの3区間、複数クライアントの合計速度を使い、ボトルネックを数値で切り分けます。

SSD・HDD・NVMe自体の違いを先に確認したい場合は「10GbEを使うならSSDの速度も重要?SATA・NVMe・HDDの違い」も参照してください。

10GbE NASは実際に何MB/s出れば速いのか

1本の10GbEリンクで大容量ファイルを転送する場合、1,000MB/sを超えれば非常に高速、800~1,000MB/sなら10GbEの効果が大きく、200MB/s前後ならネットワーク以外の上限も疑うべきです。

10GbEの規格値10Gbpsを8で割ると1,250MB/sです。ただし、この数値はEthernetリンクのビットレートをバイトへ換算した値であり、SMBファイルコピーの保証値ではありません。Ethernet、IP、TCP、SMBの制御情報に加え、送信元の読み込み、受信先の書き込み、CPU処理も必要です。

持続したSMB速度最初に疑う上限次に行う確認
90~120MB/s前後1GbE区間、または遅いHDDリンク速度とiperf3を確認する
140~260MB/s前後単体HDD、小規模HDDアレイNAS側ディスク使用率とローカル速度を確認する
270~295MB/s前後2.5GbE区間PC・スイッチ・NASの全ポート速度を確認する
450~560MB/s前後単体SATA SSD、5GbE、NAS CPUiperf3とSSDの持続書き込みを比較する
800~1,180MB/s前後高速HDDアレイ、複数SSD、NVMeプール長時間でも維持できるか確認する
1,250MB/sを継続して超える複数リンク、SMB Multichannel、キャッシュ、単位差使用中の経路数と測定単位を確認する

表の速度帯は診断の入口であり、速度だけで原因を断定するものではありません。たとえば110MB/sでも、iperf3が9Gbps台なら1GbEリンクではなく、HDDやSMB処理が約110MB/sで止めている可能性があります。

高速なNASでは1本の10GbEで1,000MB/sを超えられる

10GbEで1,000MB/s超は理論上だけの数字ではありませんが、十分なストレージ、CPU、メモリ、クライアントをそろえた条件が必要です。

QNAPは4ベイのTS-432Xについて、1本の10GbEを使った1MBブロックのSMBシーケンシャル試験で、読み込み1,181MB/s、書き込み887MB/sを公表しています。10GbEの1,250MB/sに対し、読み込みは約94.5%、書き込みは約71.0%です。これは公式ラボ条件の製品値であり、すべての4ベイNASで再現する数字ではありませんが、「10GbE NASなら読み書きが同じ速度になるとは限らない」ことを示しています。出典:QNAP TS-432X

単体HDDは10GbEの14~23%ほどで上限になり得る

単体HDDへ連続して読み書きする構成では、10GbEポートが正常でも200MB/s前後で頭打ちになることがあります。

Western Digitalが公表するWD Red Plusの最大転送速度は、モデルにより175~260MB/sです。SeagateのIronWolf Pro現行データシートには最大持続転送速度270~285MB/sのモデルがあります。1,250MB/sに対する比率は、175MB/sで14.0%、285MB/sでも22.8%です。しかもメーカー値は最大値であり、プラッター位置、ファイル断片化、同時アクセス、RAID処理で低下します。

したがって、単体HDD中心のNASで大容量ファイルが180~250MB/s出ているなら、10GbE NICの故障とは限りません。2.5GbEでも理論上312.5MB/sあるため、単体HDDだけを1台のPCから使う用途では2.5GbEで足りる場合があります。

単体SATA SSDだけでも10GbEは使い切れない

SATA SSDはHDDより速いものの、1台の連続速度は10GbEの半分未満になるのが一般的です。

Samsung 870 EVOの公称シーケンシャル速度は読み込み最大560MB/s、書き込み最大530MB/sです。10GbEの理論値に対して約44.8%、42.4%に相当します。SATA SSDを1台入れただけで1,000MB/sへ届くわけではありません。出典:Samsung 870 EVO仕様

複数のSATA SSDを並列化したストレージプール、または十分なPCIe帯域を持つNVMe SSDプールなら、10GbEの上限へ近づける余地があります。ただし、NAS内部のPCIeレーン、M.2スロットの世代・レーン数、RAID、CPUが別の上限になります。

HDD RAIDの速度は「台数×単体速度」では決まらない

複数HDDのRAIDは単体より高速化できますが、読み込みと書き込み、RAIDレベル、パリティ計算、NAS実装で伸び方が変わります。

RAID 1は読み込みを複数ディスクへ分散できる実装がありますが、書き込みは同じデータを両方へ保存します。RAID 5・6は読み込みを並列化できる一方、書き込み時にパリティ処理が加わります。スナップショット、暗号化ボリューム、重複排除、再構築、スクラブが同時に動けば、さらに低下します。

そのため「4台なら4倍」と計算せず、NASメーカーの同一モデル・同一RAIDの試験条件を確認し、自分のストレージプールをローカル測定してください。RAID 0は性能が伸びても1台の故障で全体を失うため、重要データの高速化手段として安易に選ぶべきではありません。RAIDはバックアップの代わりにもなりません。

MB/sとMiB/sをそろえないと約5%ずれる

10Gbpsは1,250MB/sですが、2進単位では約1,192MiB/sであり、測定ツールの単位を確認しないと利用率を誤判定します。

  • 10,000,000,000bit/s ÷ 8 = 1,250,000,000byte/s
  • 10進表記:1,250MB/s
  • 2進表記:およそ1,192MiB/s

iperf3は通常Gbits/sec、ストレージメーカーはMB/sを使います。OSやアプリによっては「MB/s」と表示しながら2進換算に近い場合もあります。本記事では、特記しない限り1MB=1,000,000バイトの10進表記へ統一します。

ボトルネックは方向別の上限式で考える

PCからNASへ書く場合とNASからPCへ読む場合では、使うディスクの読み書き方向が逆になるため、必ず別々に測定します。

大容量ファイルのSMB速度は、概算では次の上限を超えられません。

PC → NASのSMB書き込み上限
≦ min(iperf3順方向Gbps × 125、PCローカル読み込みMB/s、NASプール書き込みMB/s、SMB・CPU処理上限)

NAS → PCのSMB読み込み上限
≦ min(iperf3逆方向Gbps × 125、NASプール読み込みMB/s、PCローカル書き込みMB/s、SMB・CPU処理上限)

たとえばPC→NASのiperf3が9.4Gbpsなら、ネットワーク試験値は9.4×125=1,175MB/sです。PCの読み込みが2,500MB/s、NASの書き込みが240MB/sなら、SMBが200~240MB/s付近でも不自然ではありません。NASのHDDを改善せず、LANケーブルやスイッチを交換しても大きく伸びない可能性があります。

測定前に条件を固定する

機器を交換する前に、同じ経路、同じMTU、同じファイル、同じ方向で3回測り、中央値を基準値として残してください。

固定する項目記録する内容理由
接続経路PC、NIC、ケーブル、スイッチ、NASポート途中の1GbE・2.5GbE区間を見落とさないため
リンク速度PC、スイッチ、NASの交渉速度「10G対応」と「10Gで接続中」を分けるため
MTU最初は全機器で標準の1,500を基本にするジャンボフレームの不一致を避けるため
NAS状態RAID再構築、スクラブ、バックアップ、索引、サムネイル生成バックグラウンドI/Oの影響を分けるため
SMB条件バージョン、署名、暗号化、MultichannelCPU負荷と使用経路が変わるため
テストデータ大容量1ファイルと小容量多数ファイルを分けるシーケンシャル性能とメタデータ性能を混ぜないため
温度室温、NAS・NIC・スイッチの温度、ファン状態長時間後のサーマルスロットリングを見つけるため

最初からRAID、MTU、SMB設定、ケーブルを同時に変更すると、どの変更が効いたか分からなくなります。1項目だけ変更し、同じ3回測定を繰り返してください。10GbEスイッチのポート構成や受入検査は「10GbEスイッチングハブの選び方」で詳しく解説しています。

手順1:iperf3でネットワークだけを測る

iperf3が遅ければSMBやHDDを調べる前にネットワークを直し、iperf3が速くSMBだけ遅ければストレージ・CPU・SMBへ進みます。

iperf3はメモリ上のデータをTCPで送受信し、通常のファイルコピーのようにNASの共有フォルダーへ保存しません。そのため、ストレージの影響をほぼ外して、PCとNAS間のIPネットワーク帯域を確認できます。

NAS側をサーバーにする例です。NASメーカーが公式アプリ、診断機能、コンテナを提供している場合だけ、その手順に従ってください。

# NAS側:サーバーを起動
iperf3 -s

# PC側:PCからNASへ、1ストリーム、30秒
iperf3 -c 192.168.10.20 -t 30

# PC側:PCからNASへ、4ストリーム、30秒
iperf3 -c 192.168.10.20 -P 4 -t 30

# PC側:NASからPCへ逆方向、1ストリーム、30秒
iperf3 -c 192.168.10.20 -R -t 30

# PC側:NASからPCへ逆方向、4ストリーム、30秒
iperf3 -c 192.168.10.20 -R -P 4 -t 30

IPアドレスはNASの10GbEポートに割り当てたアドレスへ置き換えます。テストはLAN内だけで行い、TCP 5201番をインターネットへ公開しないでください。終了後はサーバーを停止します。

1ストリームと4ストリームの差を見る

1ストリームだけ遅く、4ストリームで大きく伸びるなら、回線容量不足ではなく単一フローのCPU処理、RSS、TCP処理が上限になっている可能性があります。

ESnetの公式資料では、iperf3 3.16以降は並列ストリームごとにスレッドを使い、CPUが上限の環境では複数ストリームにより高いスループットが出る場合があると説明されています。出典:iperf3 3.21実行オプション

4並列の数字だけを「ネットワークの実力」として採用せず、1並列と4並列を両方残してください。SMBの実ファイルコピーが単一処理に近いなら、iperf3の4並列だけ速くても、普段のコピーが同じ速度になるとは限りません。

順方向と逆方向を必ず分ける

順方向9Gbps・逆方向3Gbpsのような非対称が出た場合、HDDではなくNICの受信・送信処理、ドライバー、オフロード、CPU負荷を優先して調べます。

-Rはサーバーからクライアントへ送る逆方向試験です。新しいiperf3では--bidirによる同時双方向試験もできますが、まず片方向ずつ測り、次に必要なら同時双方向を追加してください。

# 対応バージョンで同時双方向を30秒測る
iperf3 -c 192.168.10.20 --bidir -t 30

同時双方向だけ大きく低下する場合は、NAS CPU、NIC、スイッチ、Pause Frame、熱など、全二重負荷時の処理を確認します。

Windows版iperf3の出所に注意する

ESnetはiperf3をWindowsで公式サポートしておらず、配布バイナリーも第三者提供としているため、出所不明の実行ファイルを安易に導入しないでください。

ESnetの公式サポート対象は主にUbuntu Linux、FreeBSD、macOSです。Windowsではiperf2、NASメーカーの公式診断機能、信頼できる配布元を選択肢にしてください。古いNASパッケージではiperf3自体がCPU上限になり得るため、バージョンとテスト中のCPU使用率も記録します。出典:iperf3 FAQ

手順2:PC側とNAS側のストレージを単独で測る

iperf3の次は、PCの読み込み・書き込みとNASプールの読み込み・書き込みを別々に測り、SMBが超えられない上限を確定します。

PC側は送信元読み込みと受信先書き込みを測る

PC→NASではPCの読み込み、NAS→PCではPCの書き込みが必要なので、SSDの「読み込みだけ速い」結果では判定できません。

MicrosoftのDiskSpdなど、信頼できるストレージ試験ツールで大容量シーケンシャルの読み込みと書き込みを測ります。普段コピー元に使うドライブと、NASから受け取るドライブが別なら、両方を測ってください。OSドライブの空き容量が少ない、QLC SSDのキャッシュが切れる、USBケースが10Gbps未満、温度で速度が落ちるといった要因もあります。

短いベンチマークの最高値ではなく、実際の転送より長い時間、またはSLCキャッシュを超える容量で維持できる速度を重視します。書き込み試験はSSDの消耗と空き容量を使うため、ツールの説明を確認し、重要データのないテスト領域で行ってください。

NAS側は共有フォルダー越しではなくプール自体を測る

NASプールのローカル試験が240MB/sなら、iperf3が9.5Gbpsでも、そのプールへの持続SMB書き込みが1,000MB/sになることは期待できません。

NASメーカーのストレージマネージャー、公式診断、公式ベンチマーク機能があれば、対象ボリュームのシーケンシャル読み書きを測ります。測定時はRAIDレベル、HDD・SSD型番、台数、暗号化、スナップショット、キャッシュ設定、プール使用率、再構築・スクラブ状態を記録してください。

公式のローカル試験機能がないNASへ、非対応パッケージや未確認のシェルコマンドを本番環境で追加するのは避けます。代わりに大容量SMB、複数クライアント、NASのディスク使用率・CPU使用率を組み合わせて推定します。rawデバイスを対象にした書き込みベンチマークはデータを破壊する危険があります。

手順3:SMBで実際の大容量ファイルを転送する

SMB試験では、キャッシュに収まりにくい大容量1ファイルを使い、PC→NASとNAS→PCを別々に3回測定します。

Windowsのエクスプローラーは手軽ですが、Microsoftは単一スレッドかつバッファードI/Oでコピーすると説明しています。1GBを超える大容量ファイルでは、非バッファードI/Oのrobocopy /Jが切り分けに適しています。出典:Microsoft:SMBファイル転送が遅い場合

PCからNASへの書き込みを測る

PC→NAS試験は、十分に速いPC内蔵SSDからNASの専用テスト共有へ、50~100GB以上の圧縮されにくいファイルを送ります。

robocopy "D:\NAS-test-source" "\\NAS\benchmark" "test-100GB.bin" /J /R:0 /W:0 /NP /TEE /LOG:"C:\Temp\nas-write.log"

フォルダー名、共有名、ファイル名は自分の環境へ置き換えます。重複排除や圧縮が有効なNASでは、ゼロだけのダミーファイルが実際より速く処理される可能性があるため、動画、RAW、暗号化済みアーカイブなど、普段の用途に近いデータを使います。

NASからPCへの読み込みを測る

NAS→PC試験では、NAS上の同じ大容量ファイルを、十分に速く空き容量のあるPC側SSDへ読み出します。

robocopy "\\NAS\benchmark" "E:\NAS-test-read" "test-100GB.bin" /J /R:0 /W:0 /NP /TEE /LOG:"C:\Temp\nas-read.log"

2回目の読み込みはNASのRAMやSSDキャッシュに残って速くなる場合があります。冷えた状態と温まった状態の両方に意味がありますが、混ぜて平均しないでください。「初回」「再読込」と分けて記録します。

小さなファイルは別の試験にする

数万個の写真、ソースコード、メールなどはMB/sよりファイル数毎秒、待ち時間、メタデータ処理が支配するため、大容量1ファイルとは別に評価します。

robocopy "D:\NAS-small-test" "\\NAS\benchmark-small" /E /MT:16 /R:0 /W:0 /NP /TEE /LOG:"C:\Temp\nas-small.log"

小ファイル試験では、ファイル数、総容量、経過時間をそろえます。HDDはヘッド移動を伴うランダムI/Oで不利になり、SSDプールの効果が表れやすくなります。大容量動画が900MB/sでも、小ファイルコピーが遅いことは矛盾ではありません。

手順4:SMBのバージョン・署名・暗号化・Multichannelを確認する

iperf3と両側ストレージが速いのにSMBだけ遅い場合は、SMBセッションの実際の条件と、NAS・PCのコア別CPU負荷を確認します。

Windows PowerShellでは、接続後に次の情報を確認できます。

Get-SmbConnection | Select-Object ServerName,ShareName,Dialect,Signed,Encrypted,NumOpens

Get-SmbMultichannelConnection

Get-SmbConnectionはSMB接続とDialect、暗号化などを確認でき、Get-SmbMultichannelConnectionはクライアントとサーバーのどのインターフェースの組み合わせが選ばれたかを表示します。出典:Get-SmbConnectionGet-SmbMultichannelConnection

SMB署名と暗号化は安全性のための機能です。Microsoftは、性能低下の大きさがCPUコア数・速度などに依存すると説明しています。速度だけを理由に無効化するのではなく、まずファームウェア、OS、ドライバーを更新し、転送中にNASの1コアだけが100%になっていないか確認してください。総CPU使用率が25%でも、4コア中1コアが飽和していれば処理上限になり得ます。

2本のNICやRSS対応NICをSMB Multichannelが使っている場合は、合計速度が1本の10GbE上限を超えることがあります。反対に、LACPを設定しただけで単一コピーが自動的に2倍になるとは限りません。実際に選択されたSMBチャネルを確認します。

独自切り分け1:方向別ボトルネック台帳を作る

6つの数値を1枚に並べると、「遅い」という感覚ではなく、各方向の最小値から交換すべき部品を絞れます。

測定項目PC→NASNAS→PC役割
iperf3順方向逆方向-Rネットワーク上限
PCローカル読み込み書き込みクライアント上限
NASプール書き込み読み込みNASストレージ上限
SMB共有へ書く共有から読む経路全体の実効値
CPUPC・NASの総使用率とコア別使用率プロトコル・暗号・RAID上限
温度開始時、10分後、終了時時間依存の速度低下

たとえばPC→NASだけ220MB/sで、逆方向は850MB/sなら、ケーブルを最初に疑うよりNASの書き込み、RAIDパリティ、書き込みキャッシュ、PCの読み込みを確認するほうが合理的です。ネットワーク起因ならiperf3にも方向差が表れる可能性があります。

独自切り分け2:SMB到達率で「消えた帯域」を数える

SMB速度を同方向のiperf3換算値で割ると、ネットワーク試験値のうち何%を実ファイル転送へ使えたか比較できます。

SMB到達率(%)
= SMB持続速度(MB/s)
÷(同方向のiperf3結果Gbps × 125)× 100

例として、iperf3が9.4Gbps、SMBが900MB/sなら、ネットワーク試験値は1,175MB/s、SMB到達率は約76.6%です。差の275MB/sには、SMB制御、署名・暗号化、クライアント、NAS CPU、ストレージが含まれます。

この比率は業界共通の合否基準ではありません。ストレージが遅い構成では低くて当然です。機器変更前後を同条件で比べるために使います。たとえば到達率が40%から75%へ上がり、iperf3が変わらないなら、ネットワーク帯域ではなくSMB・ストレージ側の改善が効いたと判断できます。

独自切り分け3:「開始・持続・排出」の3区間を測る

転送開始直後の最高速度ではなく、キャッシュが切れた後の持続速度と、コピー表示終了後にディスク書き込みが収束するまでを記録します。

区間記録する値分かること
開始0~10秒瞬間最大、RAM・SSDキャッシュ使用バースト性能
中盤~終了1分以上維持した中央値HDD・SSD・RAIDの持続性能
表示終了後NASのディスク活動が平常へ戻る時間未排出データ、後処理、書き戻し

開始時1,000MB/s、持続時230MB/s、終了後もNASのHDDが数分書き込み続けるなら、最初の数字はHDDの持続速度ではなくRAMやSSDキャッシュに吸収された可能性があります。電源を切らず、ディスク活動が平常へ戻るまで待って次の試験を行います。

QNAPの公式説明でも、書き込みキャッシュは先にSSDへ書き、後から通常ストレージへフラッシュする方式です。また、ランダムI/O用と全I/O用でキャッシュ対象が異なります。SSDキャッシュを追加しただけで、初回の巨大ファイルが常に速くなるとは限りません。出典:QNAP:SSDキャッシュの作成

独自切り分け4:複数クライアントの合計速度を測る

1台が400MB/sでも、2台同時で合計800MB/sへ伸びるなら、NAS全体ではなく1台のPC、単一セッション、1本のストレージ処理が上限の可能性があります。

2台以上の有線PCがある場合は、それぞれ別のテストファイル、別の保存先フォルダーを使い、同時にNASへ送ります。NASの10GbEポートの送受信量を合計し、各PCの速度も記録します。

1台の結果2台の合計考えやすい原因
400MB/s750~800MB/sへ増えるクライアント、単一SMB処理、各ストレージの上限
400MB/s合計も400MB/s前後NAS CPU、NASプール、NAS側10GbE経路の共有上限
900MB/s合計も900~1,100MB/s前後1本の10GbEがほぼ上限
速度が周期的に落ちる合計も不安定キャッシュ排出、RAID処理、熱、バックグラウンドI/O

1台ずつ2.5GbEでも、4台の合計は10GbE NASの帯域を活用できます。10GbEは「1台を1,000MB/sにする」だけでなく、家族や制作チームの同時アクセスに余裕を持たせる規格としても有効です。

独自切り分け5:3回の中央値とばらつきを残す

平均速度だけでなく最大値・中央値・最小値を残し、改善幅が測定のばらつきより小さい場合は「速くなった」と結論づけません。

ばらつき率(%)
=(最大値-最小値)÷中央値×100

たとえば780、820、910MB/sなら中央値は820MB/s、ばらつき率は約15.9%です。この状態で設定変更後に850MB/sとなっても、約3.7%の差だけでは改善したと断定できません。バックグラウンド処理、温度、キャッシュ状態をそろえ、再測定します。

測定結果から原因を判定する早見表

最も重要なのは、iperf3、ローカルストレージ、SMB、CPU、時間変化のどこから低下が始まったかです。

測定結果可能性が高い原因優先する確認
iperf3も約0.9Gbps1GbEでリンク、途中に1GbE機器PC・スイッチ・NASの交渉速度、ポート、ケーブル
iperf3が2.3Gbps前後2.5GbE区間USBアダプター、スイッチ、NASの使用ポート
iperf3は9Gbps台、SMBは180MB/s単体HDD、NASプール、CPU、SMBNASローカル書き込み・読み込みとCPU
iperf3の1並列は遅く4並列で伸びる単一フロー、CPU、RSS、古いiperf3NICドライバー、コア別CPU、iperf3バージョン
iperf3順方向だけ遅いPC送信またはNAS受信処理各NICのドライバー、オフロード、エラー
SMB書き込みだけ遅いNAS書き込み、RAIDパリティ、PC読み込み方向別上限台帳の3数値
SMB読み込みだけ遅いNAS読み込み、PC書き込み、受信処理PC受信先SSDと逆方向iperf3
開始時だけ1,000MB/s、後半200MB/sRAM・SSD・SLCキャッシュ切れ100GB超の持続値と終了後のディスク活動
大容量は速いが小ファイルは遅いHDDランダムI/O、メタデータ、ウイルス検査SSDプール、ファイル数毎秒、CPU
10分後だけ低下・切断NIC、SFP+モジュール、NAS、スイッチの熱温度、エラー、冷却時の再現性
1台400MB/s、2台合計800MB/s1クライアント側の上限PC側SSD、NIC、単一SMB処理
2台でも合計400MB/sNAS側の共有上限NAS CPU、プール、バックグラウンド処理

原因別の改善順序

交換する機器は「理論上遅そうな部品」ではなく、測定で最小値になった部品から選びます。

iperf3が遅い場合

リンク速度、ポート、ケーブル、NICドライバー、PCIe・USB帯域、エラーカウンターの順に確認します。

  • PC・スイッチ・NASの3か所で10Gbpsリンクを確認する
  • 短いCat6Aケーブルで一時的に単純な経路へする
  • 壁内配線、変換コネクター、ドックを一つずつ外す
  • NICが必要なPCIeレーン数・世代で接続されているか確認する
  • CRCエラー、破棄、リンク再交渉、Pause Frameを確認する
  • 公式ドライバーとファームウェアへ更新する

10GbE LANカードのPCIe・USB・発熱の注意点は「10ギガ対応LANカードの選び方」も参考にしてください。

HDD・RAIDが遅い場合

大容量連続転送を速くしたいなら、SSDキャッシュを先に買うのではなく、必要な持続速度とRAIDの安全性を両立できるプール構成を検討します。

  • 再構築・スクラブ・バックアップと試験時間を分ける
  • プールの空き容量、HDDの健康状態、不良セクター、温度を確認する
  • 用途が大容量連続なら、キャッシュよりSSDストレージプールを比較する
  • 小ファイル・仮想マシン・データベースならSSDの低遅延を重視する
  • RAID変更前に完全な別バックアップを作る

SSDが後半だけ遅い場合

SSDの公称最高値ではなく、SLCキャッシュ枯渇後の持続書き込み、温度、空き容量、NAS内部インターフェースを確認します。

NVMe SSD自体が数GB/sでも、NASのM.2スロットがPCIe Gen3 x1・x2、またはCPUと10GbEで帯域を共有していれば、外部SMBはその上限を超えません。ヒートシンク、通風、メーカー互換表も確認します。

SMBとCPUが遅い場合

SMB署名・暗号化を無効化する前に、Dialect、Multichannel、1コア飽和、ウイルス検査、NASアプリの負荷を確認します。

  • 転送中のPCとNASをコア別に監視する
  • SMB 3.xで接続しているか確認する
  • 署名・暗号化の状態を記録し、セキュリティ要件を維持する
  • バックアップ、メディア索引、コンテナ、仮想マシンを別時間にする
  • SMB Multichannelが意図したNICを選んでいるか確認する
  • エクスプローラーとrobocopy /Jの結果を分ける

長時間後に遅くなる場合

開始直後は速く10~20分後に低下するなら、キャッシュだけでなくNIC、SFP+モジュール、スイッチ、NAS、SSDの温度も疑います。

同じ負荷を通常状態と安全な送風状態で比較し、温度、リンク再交渉、エラーの変化を記録します。保冷剤や冷却スプレーは結露を招くため使用しません。詳しい確認方法は「10GbEは発熱しやすい?LANカードとルーターの熱対策」で解説しています。

ジャンボフレームを最初の解決策にしない

iperf3がすでに9Gbps前後出ているなら、ジャンボフレームを有効にしても200MB/sのHDDが1,000MB/sになることはありません。

ジャンボフレームはパケット処理回数を減らし、CPU負荷や効率を改善する場合があります。しかし、PC、スイッチ、NAS、途中のVLANを含む経路全体でMTUを合わせる必要があります。不一致は通信不能、断片化、特定サービスだけ遅いといった新しい問題を作ります。

最初はMTU 1,500で基準値を取り、ネットワークまたはCPUが上限と分かった場合だけ、メーカーが対応を明記した構成でA/B比較してください。

SSDキャッシュを入れれば必ず速くなるわけではない

SSDキャッシュは再利用される小さなブロックやバースト書き込みには有効でも、初めて読む100GB動画の持続速度を必ず改善する機能ではありません。

読み取りキャッシュは一度目のデータがキャッシュへ入ってから、再読込で効果が出ます。書き込みキャッシュは一時的に高速でも、最終的には背後のHDDへ排出する必要があります。短いベンチマークだけではキャッシュ容量を測っている可能性があります。

大量の動画を毎回違うファイルへ連続書き込みする用途では、SSDキャッシュよりSSDプールのほうが結果を予測しやすい場合があります。一方、写真サムネイル、仮想マシン、データベースなど再利用されるランダムI/Oではキャッシュが有効な場合があります。

100GB・1TBの所要時間を実効速度別に比較

速度差の価値はベンチマークの数字ではなく、普段扱う容量を何分短縮できるかで判断します。

持続速度100GB1TB想定しやすい状態
110MB/s約15分9秒約2時間31分31秒1GbE上限付近
180MB/s約9分16秒約1時間32分36秒単体HDDの一例
280MB/s約5分57秒約59分31秒2.5GbE上限付近
530MB/s約3分9秒約31分27秒高速SATA SSD書き込みの公称値例
887MB/s約1分53秒約18分47秒QNAP公式10GbE SMB書き込み例
1,181MB/s約1分25秒約14分7秒QNAP公式10GbE SMB読み込み例

計算は100GB=100,000MB、1TB=1,000,000MBとして、「容量÷持続速度」で求めた転送部分だけの時間です。ファイル列挙、権限処理、整合性確認、キャッシュ排出は含みません。NASからクラウドへ送る場合は、さらに光回線、バックアップソフト、クラウド側の受入速度が加わります。詳しくは「10ギガ回線でクラウドバックアップはどれくらい速くなる?」を参照してください。

10GbE NASが必要な人・2.5GbEでも足りる人

単体HDDを1人で使うだけなら2.5GbEで足りやすく、高速RAID・SSDプール・複数ユーザー・NAS上の動画編集では10GbEの価値が高まります。

利用状況向く接続判断理由
単体HDD、写真・書類の保存1GbE~2.5GbEHDDが先に上限になりやすい
2~4台HDD RAID、大容量バックアップ2.5GbE~10GbE実測したプール速度と同時利用数で決める
単体SATA SSD5GbE~10GbE2.5GbEではSSD速度を使い切れない
複数SSD・NVMeプール10GbE800MB/s以上を狙える余地がある
4台の2.5GbE PCから同時利用NAS側10GbE各PCの合計帯域を集約できる
NAS上の4K・8K素材を直接編集10GbE連続速度と複数ストリームに余裕が必要

よくある質問

速度の数字だけで判断せず、同じ疑問でもiperf3が遅い場合とSMBだけ遅い場合を分けて考えることが重要です。

10GbE NASで100MB/sしか出ないのは故障ですか?

故障とは限りませんが、1GbEの実効上限に近いため、最初にPC・スイッチ・NASが10Gbpsでリンクしているか確認してください。iperf3も約0.9Gbpsならネットワーク経路、iperf3が9Gbps前後ならストレージやSMBを調べます。

iperf3が9GbpsなのにSMBが200MB/sなのはなぜですか?

ネットワークは約1,125MB/s相当を運べても、単体HDD、RAID書き込み、NAS CPU、SMB処理のどれかが200MB/sで止めているためです。方向別上限台帳で、PC読み込み・NAS書き込み・SMBを比較してください。

CrystalDiskMarkで1,200MB/sなら実ファイルも同じですか?

同じとは限りません。テストサイズ、キュー深度、RAM・SSDキャッシュ、圧縮、再読込の影響を受けます。100GB前後の実データをrobocopy /Jで転送し、中盤以降の持続速度を確認してください。

SSDキャッシュとSSDプールはどちらが速いですか?

繰り返すランダムI/OはSSDキャッシュ、大容量ファイルの予測可能な持続転送はSSDプールが向く傾向があります。ただし、NASの対応機能、キャッシュ方式、保護構成、PCIe帯域で変わります。

SMB署名や暗号化を切れば速くなりますか?

CPUが上限の環境では差が出る可能性がありますが、安全性を下げるため、速度目的で安易に無効化すべきではありません。現在の状態、CPU負荷、OS・NASの更新、Multichannelを先に確認し、組織のセキュリティ方針に従ってください。

ジャンボフレームは9,000に設定すべきですか?

必須ではありません。まずMTU 1,500で測り、経路上の全機器が対応し、CPU・パケット処理が上限と確認できた場合だけ比較します。一部だけMTUを変えると通信問題が起こります。

NASとPCを10GbEで直結すれば速くなりますか?

スイッチがボトルネックなら改善しますが、HDD、CPU、SMBが上限なら直結しても変わりません。直結は切り分けには有効ですが、固定IP、通常ネットワークとの経路、バックアップ接続を整理する必要があります。

まとめ

10GbE NASの速度はポート名ではなく、iperf3、両側ストレージ、SMB、CPU、キャッシュを順番に測ると原因を特定できます。

  • 10GbEは理論上1,250MB/s、2進表記では約1,192MiB/s
  • 高速なSSD・HDDアレイでは800~1,180MB/s前後を狙える
  • 単体SATA SSDはおおむね450~550MB/s、単体HDDは140~260MB/sが比較の入口
  • iperf3の順方向・逆方向、1並列・4並列を分ける
  • PC→NASはPC読み込みとNAS書き込み、NAS→PCはNAS読み込みとPC書き込みを比較する
  • 大容量1ファイル、小ファイル多数、複数クライアントを別々に測る
  • 開始時のバーストではなく、キャッシュ切れ後の持続速度と書き戻し時間を見る
  • 3回の中央値とばらつきを残し、変更は1項目ずつ行う

iperf3が遅ければネットワーク、iperf3が速くNASローカル試験が遅ければストレージ、両方速くSMBだけ遅ければCPU・SMB設定・セキュリティ処理を優先します。この順番なら、Cat8ケーブル、SSDキャッシュ、高価なスイッチを根拠なく買い足すことを避けられます。

関連ページ

10GbE NASの測定後は、原因に対応するページだけを確認すると、不要な機器交換を避けられます。

主な参考資料

規格換算、ツールの動作、製品性能の比較には、開発元・OSベンダー・機器メーカーの一次情報を使用しています。